ざっかけないマンガたち

ちょっと変わったマンガを紹介します。

西仙台ハイランド団地(青葉区新川佐手山)その1

秋も深まり樹々が色付き始めるこの頃、雑草もその勢力にやや翳りが出始め限界ニュータウンを訪問するには最適のシーズンとなる。

今回訪問するのは宮城県の限界ニュータウンではラスボスともいえる西仙台ハイランド団地である。

132ヘクタールという巨大な面積と計画戸数1019戸に対し、現在の世帯は76世帯。団地内にはコンビニも個人商店も医療機関もない。団地名の由来となった西仙台ハイランド遊園地とゴルフ場は既に閉業、跡地にはメガソーラー発電所が目下建設中とその途方も無いスケールの大きさで他の追随を許さない。

さらに、隣接するエバーグリーンにっかわ団地もまた同様の問題を抱えており、新川地区が仙台市青葉区の土地価格最安を独走し続けるのは少なくとも今後20年は確証されている。まずは下の図を見てほしい。その広大さがよく見えてくるだろう。ちなみに西仙台ハイランド駅と八ツ森駅という2つの仙山線廃駅もある。

(図はGoogle Mapを基に筆者作成)

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新川地区全体が限界ニュータウンであり限界集落でもある。

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計画人口が余りにも多い。(クリックで拡大)

この余りにも広いエリアは 1回の投稿で全てを紹介することができない。また踏破もできていないことから、調査を継続しながら断続的に投稿していこうと思う。

まず紹介するのが西仙台ハイランド団地の手前側に位置するエリアである。Google Mapの航空写真では比較的家屋が多く見られ、集会所や公園も設置してあることから団地の中心部と考えてよいだろう。2019年には「ドロキャン新川」というドローン練習場を兼ねたキャンプ地もオープンしている。

後述するが、矢印とバツ印のある部分は開発放棄地である。さらに黄色で囲った部分の上部にもうっすらと道筋が見えているが、おそらくここも放棄地と思われる。

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西仙台ハイランド中心部をまず訪問した。

西仙台ハイランドへは仙台市中心部から仙台西道路へ進入し、愛子バイパスを越え作並方面の国道48号を西進すること20キロの距離である。1993年のバイパス全通によって渋滞の緩和が図られたものの、作並方面・仙台方面へ行くどちらの道も交通量が非常に多く、朝夕は依然混雑している。

この国道沿いにはかつて西仙台ハイランド駅という最寄り駅があったが2003年以降ダイヤから消え去り、事実上の廃止期間を経た後に2014年完全廃止となった。駅舎が撤去された現在は荒漠とした空き地が残されているだけで、その面影を偲ぶ痕跡すらもない。

西仙台ハイランド団地へのアクセスは、かつての遊園地とゴルフ場の看板がその目印となる。看板を左折しセイコー大橋を渡った先の急斜路を越えると目指す団地へ到達する。

この急斜路ではH変台に乗ったSVRを見ることができる。H変台はH型変圧器台の略称で、その多くは住宅地のマンション供給に用いられている。大容量の変圧器を複数個柱上設置するため2本の電柱へ橋のように架台を渡し、その形状が「H」に見えることからこの名前が付いた。その他の用途としてSVRを設置するためにも活用されており、西仙台ハイランドの場合は後者である。

SVRStep Voltage Regulator)は配電用自動電圧調整器と呼ばれる配電設備の一種で、電源から遠い郊外の電圧降下を補正するために使用されている。高い位置にあるため小さく見えるが、地上に下ろすとちょっとした物置くらいの大きさがあり、機種にもよるが重量は約6トンある。電圧降下の身近な例として、電子レンジやドライヤーを使うときに一瞬明かりが暗くなるのを感じることがあるが、あの「ふっと」暗くなる感じを地域的に抑制してくれる装置と思ってもらえればよい。つまりはド田舎ということである。

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国道沿いにある看板が目印である。遊園地とゴルフ場は経営難の末に閉業している。

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西仙台ハイランド駅の跡地はただの砂利となっている。開設当初から乗降は少なかった。

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広瀬川に架かる大きな赤い橋がセイコー大橋である。

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団地へ続く急斜路。傾斜がきつくエンジンが唸る。H変台が2台並立している。

新川地区は坪1万円が平均単価となっているが、比較的国道に近い佐手山でもその安さは同様である。アットホームでは80坪の3方角地が何と64万円で掲載されており、価格破壊は留まるところを知らない。物件情報に水道の記載が無いことと、お向かいに公明党のポスターが貼られたややお散らかり気味の倉庫があることを除けば、なかなかの掘り出し物である。

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南側から雄大な稜線を見渡せる格安物件。

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物置へしまえばいいのにと思ってしまうのだが、資材が外にも溢れている。


この西仙台ハイランド団地が分譲当初、普通の住宅地として売り出されたのか、定年後のセカンドライフを過ごす安住の地としての側面も持っていたのか今となっては定かではないが、家々を見る限り昭和の建売住宅が大半であり、リゾート感は全くない。時折ペンションのような小洒落たログハウスがあったり、築浅のタイニーハウスも見つけることができたが、これらは当初の入植者ではなく田舎暮らしを夢見た新規の移住者ではないかと推測される。

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瀟洒なログハウスである。

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よく整備された芝の上にタイニーハウスが建っている。必要なものだけを揃えた小屋で静かに暮らすのも悪くない。

このエリアの南端には「ハイランド集会所」(新川字佐手山5-789)と、その周りにささやかな憩いの場が設けられている。使われている形跡はあまりなかったが、山々を眺めるベンチと木の枝に吊ったブランコ、小さな池が作られていたりとなかなか良い雰囲気であった。また集会所とは別の場所に公園も整備されており、最低限の住環境は保全されている様子であった。

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西仙台ハイランド団地唯一の集会所である。

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さらに崖側へ寄ったところにもう一つ小さな小屋がある。

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パイプ椅子と一人掛けソファーが屋外へ放置され粗大ゴミと化している。

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火を囲みながら何を語らっていたのだろうか。丸太椅子は朽ちている。

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小さな池も設けられていた。

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ベンチから眺める連峰の風景は格別である。

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集会所とは別の区画に遊具は少ないがよく整備された公園がある。

集会所の脇には町内の掲示板があり、張り紙も更新されていることから自治会の運営自体は現在も継続しているようだ。掲示されている「乗り合いタクシー八ツ森号」について調べたところ、今年2020年8月から始まったデマンド交通で、公共交通空白地であった新川地区の移動手段確保を目指した仙台市の支援事業であることが分かった。「賛否あるネーミングはさておき」という余計な一言に行政へ安易に与しない地域住民の矜持が窺えるが、買い物や駅へ行く際に160円でタクシーに乗れるとすれば正に破格である。もう一つ気になる張り紙として『ハイランド犬猫問題』という注意喚起がなされており、野良犬野良猫に餌やりを禁ずるのは当たり前として、放し飼いの犬が目撃されているというのはやや物騒である。野犬となってそのまま山林で繁殖などしたら手に負えなくなると思うだのが、住民のモラルも低下しつつあるのだろうか。

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デマンド交通開始という明るい話題の陰に深刻な犬猫被害の実態が吐露されている。

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マナー啓発の看板が倒壊し、無残にも空き地へ寝そべっていた。

この集会所付近では、仙台市農作物有害鳥獣対策協議会が設置した箱罠もあった。捕獲対象はイノシシである。この南端のエリアはそのまま進むと谷底へと通じているのだが、まともな柵がほとんど置かれていない。スプレーで矢印を書いたブロックが辛うじて設置されているのみであり、その置き方も何だか投げやりに見える。この状況ではイノシシが斜面を駆け上ってきても不思議はないし、冬を迎え積雪が深くなればどこまでが道なのかは全く分からなくなりそうである。箱罠を設置するのは構わないが、その前に落下防止対策として柵を設けるのが先決であり、その柵によってイノシシの襲来も防ぐべきだと思うのだが、まあ色々と金銭的な事情もあるのだろう。むしろ住民と市が一体となって地域活動を推進していること自体を賞嘆すべきなのかもしれない。

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イノシシを捕獲するための箱罠が置かれていた。

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市が獣害対策の一環として設置したことが記載されている。

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ブロックがやや投げやりに置かれている。単管パイプの柵も滑落しそうである。

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舗装道の真下が谷底へつながっている。住宅地とは思えない簡易な対策である。

集会所付近の環境は良くも悪くもその町内をよく写し取っているものだなと感慨に耽っていたのだが、今更ながらあまり空き地を撮影していないことに気づいた。空き地が多すぎてもはや風景と一体化しているために感覚が麻痺してきた可能性がある。空き地の立て看板でよく見かけるのは「高誠商事」の名前である。けなげにも草刈りを実施している物件と完全放置した物件の差が甚だしく、放置された方は例によって雑草が生い茂っている。崖に接しているその区画は恐らくがけ条例へ抵触する立地となっており、資産価値など論外の完全なる負の遺産なのだろう。

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終わりの見えない草刈りがけなげにも実施されている。

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草刈りを諦めるとこうなる。

この空き地の近くにはまたしても太陽光パネルが設置されている。限界ニュータウンと野立て太陽光パネルの相関については明らかに親和性が見られるのだが、メガソーラーに飽き足らず低圧の太陽光発電所も容赦なく建設されつつある現状を住民は如何様に感じているのだろうか。この太陽光発電所はFIT法改正後の連系であったため立て看板で49.5kWという出力を確認することができた。切りの悪い出力としているのは低圧供給を可能とする容量50kW未満ギリギリを攻めた結果であり、全く浅ましいと言わざるを得ない。50kWを超える容量は低圧供給が不可とされており、高圧になると数百万するキュービクル式高圧受電設備の設置が義務付けられるためにこんな逃げ道が使われてしまうのである。この出力でどのくらいの発電量が見込まれるかというと、年間通しでかなり甘く見積もって20戸を賄えるかどうかといったところである。20戸ならまあまあ頑張っているのではないかと思われるかもしれないが、承知の通り太陽光は天候によって発電量が大きく減退し、冬場は約50%から80%は発電量が下がっていく。高瀬ガーデンを紹介した際に、「集会所ぐらいなら賄えるかも」と書いたのはこういった理由である。私が腹立たしく思うのは、こうした太陽光発電が住民にメリットとして還元されることは全くなく、純然たる投機目的として発電業者の皮算用に用いられ、その負担は再生可能エネルギー発電促進賦課金の名目で実質国民の総負担となっている構図がまるで馬鹿げているからである。繰り返しとなるがゴミである。

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またしても住宅地を脅かす太陽光パネルが出現する。

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西仙台ハイランド団地にはいくつもの発電所が設置されてしまっている。これは別の区画の写真。

野立ての太陽光発電所を連系するためには配電設備の増強も必要となり、限界ニュータウンには似つかわしくない50キロトランスが引込柱に乗っている。電柱札を忘れずにチェックしておくと、西仙台ハイランドでは共架柱となっており、電力の札とNTTの札を同時に確認することができた。東北電力の線路名がなぜ「左」手山と記載されているかは不明である。NTTの札のマークは旧電電公社となっていた。また、ドロキャン新川がオープン早々に電柱広告を出していることにも驚いた。こうした電柱広告を載せている点から地域に根ざしていこうとする気概が見え、ゴミみたいな太陽光パネルに比べて誠に好ましく感じられた。

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太陽光を連系するためだけに増強された50キロトランス。

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なぜか電力の線路名が「左」手山となっている。NTTの電柱札は旧電電公社のマークである。

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電柱広告という地味な存在へ目を付けるところから地域共生の気概が窺える。ロゴのセンスも良い。

日も傾いてきたため、この日は道路向かいの区画を訪問して一旦終了としたが、開発放棄地を舐めていた私は大いに苦戦することとなった。次回は、より荒れた住宅地と開発放棄地の探索結果を紹介する。最後に、キャンプ場を訪れる人もこの記事を見るかもしれないので注意喚起しておくが、西仙台ハイランドの住宅地は路盤が最悪である。通行には十分留意しキャンプを楽しんでいただきたい。

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舗装道に深い裂け目が生じている。(キャンプ場付近)

 

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全く舗装されていないところもある。(集会所付近)

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所々補修の跡も見えるが、アスファルトを乗っけただけの粗悪な施工である。

 その2はこちら。

takomusume.hatenablog.com