とびっきり楽しい脱力ホラーの世界(レインボー祐太)
「限りなく低血圧になるような……」
「限界集落人物伝」に引き続き、レインボー祐太氏の主著「脱力ホラーの世界」をご紹介します。なんだか順番は逆になりましたが、この本は間違いなく面白いです。
どのくらい面白いかというと、映画をほとんど観ない、さらにこの本の中の映画も一切知らない、しかし普段からゴミを愛する私が思わず一気読みしたくらいには楽しいです。三流週刊誌を眺めていたら気になるコラムを発見しそのまま読みふけってしまった、そういう気持ちを味わえます。
内容としては、主に1950年代~80年代のゴミ・カス・クソなホラー映画100本を臭い立つコラムと共に紹介する映画本となっております。
100本という作品数がすでに個人名義の同人誌にはほとんど考えられない熱量ですが、 今までに見た映画は1000を超えると記載されていることからもかなりの映画通であると窺われます。
さらにその1000本のうち「800本くらいが、いわゆる「B・C級」とか「トラッシュ」とかいわれるホラー映画」というので、これはもう緊急手術が必要とされる重篤なゴミ信奉者でしょう。
そんな純度の高いゴミ映画評がどれもこれも期待を裏切らず、内容のクソっぷりで笑えます。クソなものをただけなすのは簡単ですが、ゴミ映画を過保護にする余り珍妙な喩えが連発するので、感覚が壊れた人間の文章はドラッグのような魅力がたっぷりだなあと滲み入ります。
そんなレインボー祐太氏がもっとも愛するのはアル・アダムソン監督とジェリー・ウォーレン監督の諸作品です。「脱力ホラーの世界」冒頭に両氏への献辞があることと、紹介数が多いことから勝手に判断しましたがたぶん間違いないでしょう。
収録作全編に私なりのツッコミを加えたい欲望を抑えつつ、脱力ホラー二大巨頭の作品評について少しだけ記しておきます。
アル・アダムソン監督
~ギトギトこってりなサービス精神と限りないツギハギ、そして内容ゼロのゴミ映画~
紹介作品数:7/100
5.「ドラキュラの館」
24.「ドラキュラ対フランケンシュタイン」
44.「血塗られた殺人」
75.「BRAIN OF BLOOD」
77.「DOCTOR DRACULA」
99.「HORRO OF THE BLOOD MONSTERS」
100.「BLOOD OF THE GHASTLY HORROR」
映画のタイトルを並べてみて思ったのですがドラキュラ(DRACULA)が3回、血(BLOOD)は4回と繰り返されており、すでにタイトルからネタ切れしていることに気づきました。
アル・アダムソンの特徴として、「作った映画が売れないと、流行に合わせて客にウケそうなシーンを次々に追加撮影し、元のフィルムと適当に合体させて無理やり1本の話にまとめてしまう」という手法を好んでいたようです。その結果元々内容の薄い映画は不必要に多重構造を成し、時間も登場人物も、いつ何が起こっているのかが分からなくなってハズレだけを煮込んだ闇鍋と化した、そんなことが書いてあります。
また「車を崖から落とす」という場面をどの映画にも挿入したがり、「今日もアル・アダムソンだったな!」と謎の安心感がわくそうです。(この辺り、唐突にトラックで轢き殺して「死~ん」となる漫☆画太郎の様式美と共通していますね。)
エクスプロイテーション映画の、正統にして下道たる監督だったのでしょう。
ジェリー・ウォーレン監督
~純粋無垢で天然なおじさんがなんとなく作ったゴミ達~
紹介作品数:3/100
65.「ゾンビッド/ティーン・エイジ・ゾンビの恐怖」
66.「TERROR OF THE BLOODHUNTERS」
80.「FRANKENSTEIN ISLAND」
金儲けのために手段を選ばずゴミを量産していたアダムソン監督に対し、「天然一筋」で無敵の境地に達したという監督。
どの映画にも共通するのが「主要登場人物が全部バカ」「大人数でのプロレスごっこ」「素敵で寒いハッピーエンド」という点であり、この時点で察せられるところは大きいかと思います。
内容のクソさは文章だけでもかなり伝わってきますが、醍醐味はそのゆるくてのどかな雰囲気にあるようですね。ごった煮のアダムソンと牧場にいるウォーレン、対極なようでやっていることは全く同じ。ぜひ作品を観て私も居眠りしてみたいです。
さてこのブログで紹介するにあたり、「とびっきり楽しい脱力ホラーの世界」をコラムを含めて精読し直したのですが、「脱力ホラー」とは何なのかが今ひとつ曖昧なように感じました。
そこで、日曜朝によくやってるNHK特有のクソつまらない農業体験番組を横目で見ながら、「脱力ホラー」を定義するベン図を作ってみました。解釈にズレがあるかもしれませんが、恐らくこういった試みは以後永久に発生しないので大目に見てください。
上図をご覧ください。まずは映画があります。その片隅のほうに沈殿しているのがホラー映画です。ホラーというジャンルに精一杯の敬意を表したつもりですが、興行収入的にはもう少し狭いところに縮こまっているような気がします。
この「ホラー映画」というジャンルの内訳は大体こんな感じです。色調を適当にいじっていたらゾンビっぽい色になったので気に入っています。
まず「駄作」と「エクスプロイテーション」がホラーの大半を占めている点は異論がないでしょう。その中でもごく稀に「傑作」が浮上してきます。また、「傑作」とは言い難いながらも見た者に強烈な何かを残す「カルト映画」という分類もあります。「傑作」と「カルト映画」は純粋に面白いので「脱力ホラー」には該当しません。
「脱力ホラー」の重要な定義として「①ダメでつまらない」「②エクスプロイテーション映画である」ことの2点をレインボー祐太氏は掲げており、上図では左下の一番ゾンビっぽいところがその範囲に該たります。この段階で、世間一般でいうところの「映画」とは完全に途絶していることが分かります。
「ダメでつまらない」且つ「エクスプロイテーション」であるホラー映画をさらに煮詰めていくと「脱力ホラー」が降誕します。
その特徴(効能?)として「見終わった後全身の筋肉が一気に衰えて力が抜ける」、「別に過激でもなく、見せ場もなく、なんか、どうしたらいいのか分からない」、「見ると限りなく低血圧になる」という点が挙げられています。
こうしてみると、100本もの本数を紹介している「脱力ホラーの世界」がいかに高純度のゴミを厳選しているかが読み取れます。
世界で最も美しいのがダイヤの煌めきであるとすれば、ドブの底に沈んでいる「脱力ホラー」はあらゆる光を吸い込むダークマターとも言えるかもしれません。吸引力は変わらないのです。
ちょっと文学的に締めたところでぜひ! 再販を重ねているにも関わらずもうすぐ絶版になる「脱力ホラーの世界」を読んで素晴らしいゴミの山に飛び込んでみましょう。
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(出典)「定本 とびっきり楽しい脱力ホラーの世界」レインボー祐太 同人出版 2017.5月再復刻版(2012年4月初版、2013年5月復刻、2017年5月再復刻)
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