ざっかけないマンガたち

ちょっと変わったマンガを紹介します。

梅ヶ丘団地(山元町浅生原下大沢)

残暑も過ぎ去り爽やかな秋晴れとなった今日、限界ニュータウンを訪問するには最適の好天であった。

第1回に訪れたのは宮城県亘理郡山元町の梅ヶ丘団地である。Google Mapの航空写真を見てのとおり団地の半分が更地となっており、その更地に生えた藪が数少ない住居を脅かしていることが分かる。

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分譲が始まったばかりかのような風景。

 

 

山元町の生命線ともいえる国道6号から山側に逸れること約10分。付近の農家以外はあえて通ることもなさそうな細長い道を進むとその分譲地が見えてくる。見えてくると言っても団地の入り口付近に目印となり得るものは皆無であり、交差点に設置されたカーブミラーが辛うじてその存在を明かしている。アットホームでは65坪の更地が約150万円~とお値打ちで転がっているが、この致命的な利便性の悪さを考えると果たしてお得なのだろうかという疑問は拭えない。

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カーブミラーが唯一の目印である。

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理由は不明だが151.23万円と妙に細かい値付けをしている。

団地の入り口に来ると左手には苔生した擁壁がそびえており、無言の圧迫感を与えている。その右手には、管理されず伸び放題となった草木が生い茂る空き家が鎮座し、左右隙のない門構えといった風体である。この時点で安さに釣られて現地訪問した見学者は意気消沈し、よほどの覚悟がなければそのまま国道へ引き返すことだろう。右手の空き家の奥には廃車やコンテナやその他諸々の資材が散らかっており、分譲地の一等地とも言える区画を限りなく汚し尽くしている。

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日照が乏しいせいか苔が全面に繁茂している。

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庭木が生い茂り家屋の南側を覆い隠す。

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団地の入り口にスクラップ置き場と化した空き家が鎮座している。


当地を散策すると、相当に年季の入った家屋が大半であり団地の古さを痛感する。また北側の区画は接道が狭いうえに袋小路となっており、駐車するためにはバックを駆使することになる。空き地だらけの分譲地で住宅密集地のような苦労を余儀なくされるのは全く割に合わず、そのためか縦看板もまばらである。当然のことながら団地内に商店はなく、車を運転できるうちはまだいいとして初期の入植者が高齢となっている現状、家族親類の助けがなければ完全に孤立することだろう。では若い子育て世代がのびのび暮らせるかというと、あろうことか団地に公園そのものが見当たらず、空き地の至る所にも資材が放置され、遊び盛りの子供は家に引きこもってSwitchに興じる他はない。ちなみに最寄りの山下小学校・中学校は徒歩3キロの道のりである。

こういった古い団地では電柱札をチェックすることで造成年を推定できる場合があり、今回はNTT柱の「昭49」でこの団地が少なくとも昭和49年(1974年)から造成されていることが分かった。NTT柱では「浅生原線」と記されている一方、電力柱では「梅ヶ丘住宅線」となっており、同じ団地でも線路名が異なっている。こういうところが電柱札を読む面白味でもある。また、近年のニュータウンでは配電線と電話線は共架になっていることがほとんどであり、電力柱とNTT柱が並び立つ光景からしても造成年の古さを窺い知ることができる。

 

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画像右手が電力柱、左手がNTT柱。NTT柱の方が低く細いことから判別できる。

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古い電柱札には建柱年が記されている場合がある。

 

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東北電力の線路名は地名や方角に基づくものが多いが団地の名称を記す場合もある。

夏が過ぎたとはいえ雑草はまだまだ健在であり、中には草刈りを放棄した売地も数多く見られる。その一方で不自然に草の生えていない区画もあり、どうやら除草剤を撒いて根絶やしにしている模様である。私の祖父母が農家ということもあり雑草の性悪さは嫌というほど聞かされ、また身に沁みているが、広い宅地を利用して家庭菜園を営む入居者もいる中で傍若無人に除草剤を散布するのはいかがなものか。市内への利便性はともかく豊かな田園風景を売りにしている山元町で、あえて数少ない長所を刈り取ってしまうのはどう考えても悪手であろう。

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自社サイトにも多数の類似物件がある要チェック不動産会社。

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看板が埋もれ、売る気はもはや無い。

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家庭菜園の夢すらも破壊した先に何を見ているのか。

団地の奥へ進むと次第に路盤は荒れ始め、道の脇からは草木がしな垂れ掛かり、山林への旧道へ侵入するかのような趣を呈している。実はこの団地奥側にはGoogle Mapやゼンリンの地図にも表示されず、宮城県が公開している「大規模盛土造成地マップ」で唯一存在が確認できる道がある。ポイ捨て禁止の看板がその入口である。 

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少々の窪みが出始める。

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土砂崩れの痕跡を示すパイロンが見える。

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ダンジョンの入口である。

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団地の西側に延びた区画はGoogle Map等には表示されていない。

この入り口から奥へ進むと左右に分かれる丁字路に突き当たる。「大規模盛土造成地マップ」では十字路となっているがその奥は見通すことができず、今回は左右のみを探索した。突き当たって左に行くと幾本もの倒木が道を塞いでおり、その倒れ方が階段状となっているため全く管理されていないにも関わらずパッと見はハイキングコースのように見える。果敢にもその先へ進んだが、スニーカーとチノパンという軽装では話にならず、一応行き着けるところまでは到達したが、その先はぬかるんでいたので敗走した。

 

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根本付近が腐朽し、そのまま横倒しになった樹木。ただ放置されているだけである。

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倒木を乗り越え進んでいったが、スニーカーが泥にまみれ無念の敗走。

丁字路を右に下っていくと、門のようなものを構えた区画に行き当たる。管理されている様子はなく、進めないことはなかったが住人と遭遇する可能性もあったため手前だけを撮影させてもらった。

 

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木枠の門があり、物置のように使用している様子が窺えた。

住民からすると散歩ついでに森林浴を楽しめる絶好のスポットと言えなくもないが、個人所有の山林なのか、はたまた開発を放棄した負の遺産なのかと暗い妄想は絶えず渦巻き、一刻も早くここから立ち去りたくなるような薄気味悪さがある。森を抜け、元の限界ニュータウンに戻ったとき、なぜか朗らかに雑草を眺めることができたように思う。

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雑草の丈は身長を追い越し、緩やかに林野へ還ろうとしている。

 

次回は高瀬ガーデンを紹介します。