ざっかけないマンガたち

ちょっと変わったマンガを紹介します。

星沼別荘(宮城県大崎市鳴子温泉星沼)

鳴子温泉郷最後の目的地は中山平温泉に隣接する星沼別荘である。国道47号を西進し鳴子峡を通過、その先の大谷川沿いに点在する星沼地区の旅館一帯が中山平温泉である。星沼という地名には義経伝説が絡んでおり、あすか旅館から蛇の湯一帯は元々沼沢地で「黒森ノ渕」と呼ばれる特に大きな沼があったのだが、湖面に映る星々を見た義経一行が鎌倉の星の海になぞらえ「星ノ沼」と名付け、また沼辺に立ち昇る湯の煙を見て「星ノ湯」と呼んだのがその由来という(『鳴子町史』より)。

星沼別荘は中山平温泉がある川沿いではなく山側に造成された別荘地で、これまで紹介してきた鳳鳴平、柏木原と比較すると最大の規模となる。

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中山平温泉の北側に大規模な別荘地が広がっている。

星沼別荘について何か分かることがないかと色々探してみたが、例によって有益な情報はあまり見つからない。唯一Google Mapの「㈱星沼温泉管理組合」のクチコミに星沼別荘の概史が記されており、全面的に信頼が置けるかはさておき次のようなことが書かれている。曰く、高度経済成長期に温泉付別荘として分譲されたこと、温泉の湧出に問題があり、しかも開発会社が掘削途中に破産したこと、住人有志で温泉組合を結成したことなどが滔々と記され、苦労の末引湯された温泉は本当に素晴らしいのだと結ばれている。ストリートビューで見ると古びた看板も設置されており、更なる情報を求めてまずはこの管理組合がある場所を目指してみることにした。

星沼別荘へのアクセスは「星沼温泉付別荘地」と書かれた看板が目印となる。看板が立つ道沿いには屋根がブルーシートに覆われたボロ屋が早速見えてくる。「温泉」の看板が板の隙間から見えるが、元々何の建物であったのかは不明である。この道を進むと枝葉がアーチ状に広がった美しい木立があり、一瞬だけ心洗われる気分となる。残念ながらその先の別荘地入り口真正面にヤブガラシで覆われた汚らしい小屋があり先ほど味わった興趣は瞬時に削がれるのだが、家屋売買の際には給湯料金の未納分をよく確認するようにとひどく現実的なメッセージまで書かれている。「㈱星沼温泉管理組合」前にも同じ筆跡の看板があり、温泉湧出の不足を弁解するような文言が記されている。現在は湧出の不安は解消されているようだが、未利用地も空き家も多く荒廃の一途を辿る中で余りにも遅過ぎる取り組みだったと言わざるを得ない。

ちなみにこの管理組合の先は国道へ通じるもう一つの出入口となっているが、道路幅がさらに狭く離合不可能な険しい峠道となっている。

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別荘へと通じる横道に看板が立っている。

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別荘への道は細く急な斜面となっている。

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「温泉」と書かれた看板が覗くボロ屋。ポンプ小屋のように見えるがどのような用途で建てられたのかは不明。

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農機具小屋と思われる建物も隣にあるが、ビニールハウスが倒壊したまま放置されている。

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美しい木立が続いているが、きれいなのはこの一瞬だけである。

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ツル植物に覆われた小屋が入り口の真正面に鎮座している。

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看板その1。管理組合にとって滞納料金は腹に据えかねる問題かもしれないが、でかでかと掲示してあるのは心証が悪い。

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管理組合の建物。高圧の電気が供給されており、おそらく動力ポンプの稼働に利用されている。

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看板その2。給湯に関する注意書きのようだ。

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看板が無い方の出入口は極端に細く、離合不可である。

別荘地の名前は既に判明しているが、電柱などの公共設備もチェックしておく。電力柱には「星沼」、NTT柱には「青山」という線路名が記載されている。浄水場と貯水池にも「青山」という名称が見え、推測だが別荘地が造成される前は一帯を青山と呼んでいたのではないだろうか。

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電力柱の線路名は「星沼」。プレートの文字は薄くなっており年月を感じさせる。

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NTT柱の線路名は「青山」。

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別荘入口付近の浄水場。景観に配慮した外観となっている。

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北奥には貯水池がある。

別荘地内部の道は非常に細く、管理不全の未利用地や空き地から侵食してくる草木のせいで更に道幅が狭まっている。道路の舗装はガタガタで、所々に深い裂け目と陥没が生じている。側溝も詰まったままで機能はしていない。また、どの道もかなりの傾斜で平坦な箇所はほとんど無い。雪が積もれば立ち往生してしまいそうな道ばかりで、その上開いたままの側溝が両脇にあるのだから全く危険極まりない。

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舗装が剥げ、陥没が生じている。

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荒い石組みの擁壁。脇からこぼれた草木が堆積している。

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元から狭い上に未利用地から植物が伸びて通行が一層困難となっている。

未利用地は基本的に荒れるがままで完全に放置されている。たまに立て看板もあるが、大阪系の業者のため管理はなされず、基本的にただ立っているだけという状態である。

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雑木が生えてぐんぐん伸びている。

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大阪系業者「リアル不動産販売」の看板。星沼別荘では10箇所以上見つかる。

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刈払いされている貴重な土地。この看板は地元の不動産屋。

アットホームでは星沼別荘の土地は坪単価5千円の激安価格で掲載されている。自主管理のため管理費は無し、温泉利用には月1万6千円(1万8千円という記載も)かかるようだ。近くには源泉かけ流しの「しんとろの湯」という銭湯があるため、正直この高額な月額に納得できるかは微妙なところである。

現地には1軒だけのぼりを立てた売家があったが、長年売れ残っている様子だった。

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土地価格は底の底まで下がっている。

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坪単価5千円なので781坪でも390万円。

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この程度でも管理良好の部類となる。

草木が茫々と生えた未利用地は多いが、荒廃が進む空き家の存在が荒涼とした印象を決定づけている。もはや枚挙に暇がないので画像を貼り付けるだけとなるが、30分ほどの滞在でこれだけの写真を撮れたので、じっくり見ていけば何十軒でもこうした家々を発見することが可能であろう。

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ボートを突き刺した前衛的なデザインの家。

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純和風な家。赤いポストがボロボロに錆びている。

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ミハラなのかメイハラなのか。

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屋根も外壁も全てがボロボロな家。玄関から植物が闖入しようとしている。

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この家も周囲の植物に侵されている。

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三角屋根の廃墟。家自体が大きいと荒廃したときの印象も一層寒々しいものとなる。

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床下を支える木が余りに弱々しい。勝手口も宙に浮く格好となっている。電力メーター本体は既に撤去され、ボックスだけが残置されている。

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伸び放題の枝木が電線へ擦り合ってしまっている。電力会社は設備保全のため自ら接近木の伐採を地権者に申し出るのだが、連絡が取れない場合はこのように放置されてしまう。

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この家も雑木に喰われている。

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外階段が完全に錆びており踏み抜いてしまいそうである。階段下にも資材が放置されている。

北側の最奥部はもっとも荒廃が進んだエリアで、自然倒壊した家もあった。特に斜面の家はボロボロで見るも無残な状態である。私が訪問した時点では斜面の木々が刈り払われ立て看板があったが、撮影日が1年前のストリートビューでは木々が茂っている。このブログでは草刈りされていない土地を毎回のように糾弾しているのだが、急斜面を一挙に刈ってしまえば逆に土砂崩れのリスクも生じてくるだろう。そもそもこんな斜面が売れるわけないのだから余計なことをせずそのまま放置するべきだったと思うのだが、刈ってしまったものは仕方ない。ちなみに地図上では放棄分譲地と推測される更に奥地が記載されているが、現地には道も電柱も無く先へ進める状態ではなかったためアタックを断念した。

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倒壊してしまった空き家。

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急斜面の売地。斜面側にもダイナミックに支柱を突き刺している。奥の「星沼荘」も崩落寸前である。

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斜面に立つ「星沼荘」の正面。入口の板が斜めに倒れかかっている。

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2019年撮影のストリートビューでは木々が茂っている。法面保護のためにはこのままにしておいた方がよかったのではないだろうか。

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「星沼荘」と真下の倒壊した家。眺めだけは良さそうである。

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別な角度から。紅葉の山並みが美しい。

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危険を感じたため更に奥へのアタックは断念。

年末までこんなブログに付き合っていただきありがとうございました。今回で鳴子編は一旦終了です。次回は再び宮城県南の分譲地を紹介する予定です。