鳳鳴平別荘(大崎市鳴子温泉入沢・沼井)その2
前回に引き続き今回も鳳鳴平をご紹介する。本当は一つの記事にまとめようと思っていたのだが、私の悪い癖で書いているうちにあれもこれもと脱線を繰り返し、結局何千字にもなってしまうので読みやすさを考えて分割している(ということにしている)。それでも一つの記事には何らかのテーマを持たせようと思っていて、「その1」では鳴子温泉郷に点在する別荘地の紹介を兼ねた導入部と、投げやりな行政の関与、みんな大好き荒れ果てた空き地・空き家と一応まとめてみたつもりである。
鳳鳴平別荘(大崎市鳴子温泉入沢・沼井)その1 - ざっかけないマンガたち
「その2」では鳴子唯一のマンション「鳴子サンハイツ」と鳳鳴平の管理費について、最後にとある廃墟をご紹介していく。鳳鳴平の中心部から見た東西の周縁部がその舞台となる。
西南に位置する 「鳴子サンハイツ」は建築年月が1975年、7階建てで総戸数197戸と、鳴子の寂れっぷりや山間の立地に比して途方もなく巨大に感じられる。現地で実際に見てみるとその威容はものすごく、入り口がある北側にはなぜかほとんど窓がないため正直なところ刑務所のような印象を受けた。入り口もかなり狭く、照明を間引いているのかそもそも薄暗いのか奥のエントランスへ向かって深い闇が濃くなっていくように感じられ、閉塞感がすさまじい。この入り口の脇には錆びた「石焼いも」の看板と芋焼き機が置かれていて、現役で稼働しているとすれば住民にとって貴重なホットスナックということになるのだが、物寂しさを一層際立たせるアイテムと化しているのは間違いない。
SUUMOの物件情報では中古150万円で販売されており、生活感が溢れる物件写真に辟易しながらも内部の様子が詳しく把握できた。リビングにオフィスチェアが並んでいるところを見ると、個人の所有ではなく会社が一室を買取り保養所として使用していたことが推察される。バルコニーからは建物裏手に広がる雄大な山々を眺めることができ、鬱屈した外観と比べて眺望は優れているようだ。所有者には月々の管理費用1万7千円、修繕積立金3千円が課せられ、この少なくない負担額が重荷となり売却に至ったのだろうか。
鳴子サンハイツは会員専用のリゾートホテルとしても稼働しており共用の内風呂・露天風呂を備えている。「温泉チャンピオン郡司勇の温泉サイト」によると「透明、無味、無臭の単純泉で58.3度。総計394mgの個性の無い湯」とあっさり断じられているが、よく手入れされた坪庭と遠景のコントラストは得難いところがあり、単純泉も硫化水素の心配が無いという点ではむしろメリットといえるかもしれない。
鳴子サンハイツ北側は斜面に沿って別荘がまばらに建っており、数件を除いてやはり荒廃が進んでいる。幾本もの共用道が渡され小狭い区画が分譲された形跡はあるが、真ん中の区画はほとんど利用が進まず小さな森を取り囲むような形状となっている。斜面をさらに奥へ進んだ先は行き止まりとなっていて、「ゴミ等を捨てないで下さい。それから良心も捨てないで下さい」という胸を打つメッセージを掲げた看板が立っていた。一部、森がきれいに刈り払われている場所があったのだが残念なことに墓地である。瑕疵と言えるほど隣接はしていないので気にせず住んでしまえばいいのかもしれないが、そもそもこの土地はどのような由来があって、なぜ寺もないところに墓地だけがあるのかといった邪な空想が広がっていきそうである。墓地の手入れが行き届いている点も荒れた別荘と対照的で何とも皮肉な光景であり、山々を見渡せるはずの南西方向には眺望を完全に遮蔽する鳴子サンハイツが鎮座し、残された道として施業放棄林を虚しく眺めるほかはない。
ちなみに、いくつかの物件情報から得た土地・価格以外の費用は温泉利用権が80万円(購入時一括、10年ごとに更新料別途10万円)、温泉使用料として月1万1千円~1万4千円、浄化槽に年4万と諸々がかなり重い。
「鳳鳴平管理事務所」付近の東側は道路沿いに数軒の別荘があり、細い脇道を行った先も分譲地のように見えたが完全に放棄されている様子だった。このエリアには大阪系の業者「セイブ地所販売」「泰功不動産」の看板が乱立しており、どこにでも生えてくる外来種のような意地汚い根性に尊敬の念すらも芽生えてくる。
このエリアを更に東へ進むと「たかともワンダーファーム」という大型の廃墟がある。「廃墟検索地図」によると「1990年7月に開園。1万坪の広大な敷地に、温泉施設、温水プール、グランドゴルフ、サッカー場、ミニホースの馬車、幌馬車などがあった。花見の場所としても当時は栄え」、「2011年3月の東日本大震災により閉園」とある。「じゃらん」の口コミでは3件の評価が全て☆1となっており、閉園直前の悲惨な運営状況が窺える。曰く、施設がボロい、従業員のやる気がない、温泉が暗くて汚い、サウナ付きと謳っておきながら使用不可、ペット可なのに犬種の事前問い合わせに対してツッケンドンな態度等々、ひどい言われようである。現地には侵入防止の物々しいバリケードが張り巡らされている一方で、食堂の引き戸が開けっ放しになっていたりとどこか「緩い」印象があった。この廃墟一帯は太陽光発電に転用されており、豊かな自然環境を極めて無機質で異様な風景へと変貌させている。