ざっかけないマンガたち

ちょっと変わったマンガを紹介します。

鳳鳴平別荘(大崎市鳴子温泉入沢・沼井)その1

紅葉シーズンである。今回訪問する鳴子温泉郷鳴子峡鳴子ダムを中心に多くの絶景スポットを有し、1年でもっとも活況を呈する時期となっている。Go Toキャンペーンの波に乗り、県内外の脚光を浴びることで寂れた宿ばかり目立つ鳴子温泉が再興するのを願うばかりだが、例のごとく私の赴く先は温泉郷の中でも究極に寂れてしまった別荘地である。

鳴子温泉郷に点在する別荘地は開発が古い順に、鳳鳴平、星沼、柏木原の3つがある。先ほどから「郷」と付け足しているのは便宜的にまとめているだけで、これらの別荘地は全く独立しており源泉も異なる。それぞれ鳳鳴平温泉、中山平温泉鬼首温泉が最寄りの温泉となり、多くの観光客が訪れる鳴子の温泉街からは離れていて、どちらかといえば秘湯・秘境の趣が色濃い。

第1回はもっとも初期に開発された鳳鳴平別荘を紹介する。『鳴子町史』によると沼井地区「鳳鳴平(ほうめいだい)」に253区画の別荘地が造成されたのは1966年に遡り、河川流域と段丘へ自然発生的に集落が形成されてきた鳴子の歴史上、初めての計画的な分譲として記録されているようだ。しかしその面影は遠く過ぎ去り、未利用地は荒れるがまま、朽ち果てる保養所に空き家、そしてわずかな入居者がひっそりと肩を寄せ合う限界郊外の様相を晒している。

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この広大なエリアが鳳鳴平別荘である。

 鳳鳴平へのアクセスは鳴子小学校脇の細く急峻な坂を駆け登り、上野々(うえのの)スキー場を経由するルートが至近となる。この上野々スキー場は1926年(大正12年)開業の超老舗スキー場で、その道筋にあるレストハウス廃墟もまた味わい深いのだがひとまず素通りし、日本一の強酸性湖である潟沼の案内看板が見えたら、そこを逆方向に曲がった先が鳳鳴平である。このように書くとずいぶん奥まった高原地帯なのかとイメージするかもしれないが実際は「ちょっと小高いかな?」と感じる程度の標高で、山々の稜線は確かに美しく感じるものの素晴らしい眺望かといえば別にそうでもなく、要するに中途半端な盆地である。

 別荘地の入口にそれらしい看板はなく、代わりに犬の放し飼いと糞の後始末を警告する鳴子総合支所の注意書きが目印となっている。こういった注意書きは西仙台ハイランド団地でも見かけたのだが、仮にも別荘地を名乗るその真正面に鎮座していては興醒めもいいところである。この立て看板が設置してある道は中央分離帯を設けており、その分離帯には松や杉、その他様々の樹々を植えて緑化の管理は案外行き届いている。正直分離帯を設けた意味は分からないのだが、輪をかけて無意味と思えるラウンドアバウトまでもが整備されており、行政の一人芝居が展開する不思議な空間となっている。

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この看板が実質の目印となるのだが、物々しいメッセージが別荘地の興趣を削ぎ落としている。

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何の意味も見い出せないラウンドアバウト。分離帯の植栽自体はよく管理されている。

まずは電柱札をチェックする。東北電力は「東沼井枝線(しせん)」、NTT柱の方は「鳳鳴平」となっている。これまで線路名の見比べを幾度も行ってきたが、偶然か故意に避けたのか不思議と一致したことはない。東北電力もNTTも自分が管理する線路名さえ把握できていれば事足りるので、共架設計を行うときに一瞬目に留まることがあってもそれ以上は何の関心も無かろうが、私自身にとっては団地名の特定や地名の調査に有用でありこうしたチェックは今後も続けていきたいと思う。ちなみに支柱の方は木柱が現役である。

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東北電力とNTTの線路名がそれぞれ異なっている。

道路に目を落とすとあちこちの亀裂は言うまでもなく、大きく陥没したままの箇所もかなり目立つ。不動産見学は雨の日にこそ行うべきというアドバイスをよく耳にするが、このような大規模な水溜りは大袈裟としてもなるほど参考になるなと感じた。積雪量によっては車がスタックする可能性も出てくるだろう。

また道路の幅は車1台通るのがやっとで家々も狭苦しく密集しており、細切れに分譲されたことが容易に想像できる旧弊な規格となっている。駐車場は車1台停めるのも困難な家が多く、その風景は限界ニュータウンの様相と何ら変わるところはない。そこら中にある袋小路の先には古タイヤが無骨に置かれていて、行き止まりを示しているのかもしれないが一見しただけでは不法投棄と見分けがつかない。もちろん転回はできないので突っ込んだ後はそのままバックで戻ることになる。

そのような中広々とした耕作放棄田がすぐ脇に併存していて、この土地を使えていればもっと計画的な道路が敷設可能となりずいぶん違っていただろうなと遠い過去の粗暴な開発に思いは馳せていく。

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路盤の状態はかなり悪い。

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陥没した道路に大きな水溜りができている。

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何とも狭苦しく離合困難な隘路に取り囲まれており、別荘というよりも山間集落である。

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袋小路の先には古タイヤが無造作に置かれている。この狭さでは敷地内に乗り入れるのもかなり困難であろう。

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狭苦しい住宅地とは対照的に広々とした耕作放棄田がすぐ側に立地している。

 道路と同じく、家々や空き地も久しい年月を感じさせるものが多い。

古タイヤのそばにあるロッジは樹々と雑草がアプローチを阻害しており、どこから入るべきかよく分からない状態となっている。ウッドデッキは朽ちて踏み抜いてしまいそうである。

「南鍛冶興産」の売家は木の柱が宙に浮いてしまっていて近寄るのも恐ろしい状態である。私の勘違いでなければ、左側に傾斜しているようにも見え物理的にも精神的にも不安定な風景を形作っている。

擁壁がボロボロに崩れて、そこから雑草が生え始めている家もあった。人が軽く小突いただけで決壊しそうな雰囲気である。

長く放置されたために階段が雑草に覆われ、外壁をクズが伝っている家もある。そのうちクズだらけの蔦ハウスとなるだろう。

三角屋根が一見小綺麗な家は、外壁が剥がれて木材が露出してしまっている。屋根と屋根が接する箇所も漏水の痕跡が濃厚で、室内の惨状は想像したくもない。高く伸びたススキが荒廃した印象を一層強めている。

 立て看板がある土地は整地必須で、長く間伐されてこなかった雑木林は密生が甚だしい。ここでも大阪系の業者「セイブ地所販売」の看板が立っていた。立て看板すらもない土地はススキやセイタカアワダチソウ、クズが生い茂り、ただの荒れ地になっている。

 その他、基礎と車庫が放置された土地、木材とトタンが崩れてぐちゃぐちゃになった土地、雑草で覆い尽くされた元遊歩道など深刻な荒廃は見るも明らかである。永住者の高齢化と離村が更に進めば無人化するのもそう遠くない未来と思われ、かつての鳳鳴平を偲ぶものは『鳴子町史』の数行と一部の好事家しか読まない辺境ブログという結果に収束するのではないだろうか。

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アプローチがよく分からなくなったロッジ。ウッドデッキは朽ちている。

 

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あろうことか柱が宙吊りになっている。家も地盤も傾斜している可能性が高い。

 

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擁壁が崩壊寸前の家。隙間から雑草が生えている。

 

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繁殖力旺盛なクズが家を取り込んで捕食しているように見える。

 

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三角屋根の瀟洒な家だが雨漏りの可能性が濃厚である。

 

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間伐されていない松林に立つ看板。奥に向かって傾斜しているようにも見える。

 

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限界郊外に行けば必ず出会える大阪系業者の立て看板。

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撤去が難しい車庫と基礎だけ放置されたのだろうか。

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ススキの奥に木材とトタンの残骸が放置されている。

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地図上では歩道が続いているのだが雑草に覆われその面影はない。


次回は鳴子唯一のマンション「鳴子サンハイツ」とその周辺、物件の相場や管理費などについて触れていこうと思います。

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