限界集落人物伝(レインボー祐太)
クソジジイとクソババアしかいない村です。
レインボー祐太氏といえば、『とびっきり楽しい脱力ホラー映画の世界』や『お胸がドキドキ サイドショー映画の世界』でコアな映画ファンからカルト的な支持を受けている人物ですが、本作は待望の新著ということになります。
氏の育った限界集落は世界から隔絶され、人間が辛うじて正気を保てるレベルでなんとか廃村を免れている地域であることが序文から察せられます。
そしてその村には強烈としか言いようのない奇妙な村人たちが生息していたようです。
どう見ても働いていないが運だけでその日を過ごしているオヤジとその家族、「食べかけのアイスクリーム」が放置された商店、キレる田舎巡査、そして負けず劣らずの個性を放つ我が家のじいさん・ばあさん。濃厚過ぎますね。ねっとりと糸を引いています。
「普通の暮らし」というとなかなかその定義は難しいのですが、この村が尋常でなかったことだけは確かです。どいつもこいつもアクが強く、一つの話を読むたび猛烈に森林浴したくなるようなそういう異臭が漂っています。しかし、面白い。
以下気になった人物の一言感想のようなものを書いてみます。他にもキチガイがたくさん出てくるのでぜひ買って読んでみてくださいね。
二十世紀の桃太郎 ~米山のオヤジ~
てっぺんだけ禿げたシャンプーハットのような頭にもじゃもじゃの髭、田舎によくいる意味不明な肥満体という見た目全てが喜劇のオヤジ。「わしは麻原彰晃じゃけえ」と語る等、独特のユーモアセンスを持っていた。糖尿病が原因でひっそりと死亡。働いていないがなぜか孫もいる。
永遠のモラトリアム ~米山のムスコ~
主食はカップ麺とキャベツの芯。推定140キロで、風呂に入らないのが特徴。二十代までは自転車に乗り、三十代で原付きへ乗り換え、ついに現在は軽自動車を乗り回し年々危険度が増しているようだ。素質だけでは先代をも上回っている。
食べかけのアイスクリーム ~鹿田商店~
常連客である米山のオヤジが食べかけにして、木のスプーンが差したままのアイスがある商店。どこの商店でも門前払いされるろくでなしが寄り集まって、この世の末となっている。この店でやむ無く買う羽目になった天ぷら油は酸化を通り越し、奇妙な泡が出てきた。実はじじいは仲人の仕事で荒稼ぎし、「笑っていいとも」のチェックに余念がない。ばばあは半ボケで「猫の餌にどうぞ」と雀の死体をプレゼントしてくれることがある。
等々、こういう感じですごい奴らがたくさん出てきます。
私はレインボー祐太氏の文章が大好きで、客観的で淡々としながらも絶妙な比喩とツッコミが冴え渡っているんですね。
映画メインの人なのかなと思っていましたが、古い怪奇小説や見世物小屋が好きだったりと好みがなかなか似通っています。
これからも世の中のZ級をがんばって紹介していってほしいと思います。
そのうちこのブログでも主著である『とびっきり楽しい脱力ホラー映画の世界』をレビューしたいです。
それではまた。
(出典)「限界集落人物伝 ~私の村の天然記念物たち~」レインボー祐太 同人出版物 2017